しっかりと目を開けていられなかったのは、白い光が眩しかったからではありません。そこに広がるだろう萌える山なみを、私はどうしても見ることができませんでした。

あまりにも遥かな空。見えない果てまでも、どうか飛んで行かないで。私は人知れず、そう強く思っていました。限りの無い空よ、これ以上青く広がらないで。どうかその青さで、あの人を吸い込まないで。私はこっそり、そんなことを祈っていました。

勇気のあるあの人は好き。あの人が抱く希望を、奪うことなんてしたくない。そう思う一方で、勇気をもって夢を抱き、今翼を広げようとしているあの人の姿を、しっかり見届けることはできませんでした。あの人の後ろで、私は涙をこらえていました。これから旅立とうとするあの人の姿を見ることができず、目を閉じて…。

あの人は言います。今、別れのときだと。私は、別れたくないと言うことができませんでした。勇気あるあの人は、未来を信じて飛び立つのだと言います。それから、自分の力も信じるべきだと。私は飛び立つよりも、まだここにいたい。私の目は未来より、”今”を見ている。自分に力があるとは、思えない…。

好きな人が今、この学校から飛び立とうとしています。”卒業”という名の旅立ちを、今…。

指折り数えてみれば、懐かしい…と呼ぶにはまだ日が浅すぎました。でも、もう遥か昔のことのように感じました。小さなことでぶつかり合い、何でもないことで言い争い…。自分のことを分かってもらえず、相手のことが分からず、悔しくてたまらなかった。分かり合えないもどかしさに、何度涙を流したことかしれません。

そして、その後に通じ合ったときの嬉しさは、今でも忘れられません。きっとこれからもずっと、記憶から薄れることはないでしょう。

いつまでも一緒にいられないことは、わかっていたつもりでした。でも、別れのとき。ずっとつないでいた手は、そう簡単に離せませんでした。そうは言っても、ここはいつまでも私たちの居場所であるものじゃない。飛び立つときを迎えたのです。”卒業”の文字を背に、今…。

『旅立ちの日に』

先輩だった好きな人は送り出すときも、自分が卒業するときも、合唱したのは同じ歌でした。